『  深き淵より  ― (3) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

「 ・・・ふうん ・・・ ここが 魔法使いのお城  なのね・・・ 」

フランソワーズは馬から降りると しげしげと眼の前の城を眺めていた。

当然 ・・・というか <眼> は使えない。  いや、稼働はするのがソレを全く投影しないのだ。

<耳> も同じ。 最高レベルにしても まったく聞こえない。

いや  聞こえるのは鳥たちのさえずりと風の声、葉擦れのおしゃべり、そして梢の囁き音・・・

緑したたる大森林の音はうるさいほど周囲に充ちている。

それなのに機械が運んでくるデータは ごく当たり前ののんびりした郊外の野原の様子を示す。

そう ・・・ 野原だけ、を。

 

「 でも  それじゃ・・・アレはなんなの?  わたしの目の前に聳えるあの古城は・・・ 」

普通の、生身と同じ 耳と眼からは ― 

轟々と深い森を揺らす風、城の尖塔を巡ってくる細いつむじ風、そして 城壁の岩屋をわたる木枯らしが鳴り響き ・・・ 

目の前には 苔むした城壁に囲まれたおどろおどろしい古城が見えるのだ。

 

 ― 城、 魔法使いの城 は確かに存在する。

 

 

        この坊やを帰してほしければ 街外れの城までおいで・・・!

 

あの薄紫のもやをまとった女・魔法使いは ジョーをその腕に抱き、そう嘯いて消えていった。

城 とは、あのカエル王子が言っていた魔法使いの本拠地、

きっと道中でも数々の妨害が待ち受けているにちがいない。

「 でも。 わたし、行くから。  きっと ジョーを助けるわ!  あんな魔法使いになんか負けない! 」

フランソワーズは意気込んで カエル城 から飛び出してきたのだ。

城の厩に繋いであった白馬を ちょいと拝借した。

「 ねえ・・・ 真っ白な綺麗なお馬さん。 お願いします。 わたしを助けてくれますか。 」

見ず知らずのりりしい・王子 ( の恰好をしたフランソワーズ ) に 白馬は大人しく鼻面を押しつけてきた。

「 ありがとう!  あの ・・・ きっとね、 これからの道中はなかなか・・・その、いろいろある、と思うの。

 それでも・・・一緒に行ってくれる? 」

 

     ブルルル・・・ ブルルルル ・・・・

 

馬は真っ白な鬣をゆすり、白くて長い睫毛に縁取られた大きなセピアの瞳で 彼女を見つめた。

「  ― ありがとう!  わたし、 フランソワーズ。 よろしくお願いね。 」

 

     カッ ! ・・・・ ブルルルル ・・・・

 

白馬は大きく嘶くと新しい女主人を乗せ、意気揚々とカエル城を出ていった。

 

     カエルの王子さま・・・ごめんなさい・・!  

     あなたは よい方だったけど。  ・・・ あのう ・・・わたし・・・

     ・・・ ぬめ・・・っとしものってどうしても苦手なの・・・

 

フランソワーズは 馬上からちらり、とカエル城を振り返ると、そっと投げキスをした・・・

  − そして

白銀のマントを翻し 白馬と共に城下に走りでた。

 

 

   

    ザワザワザワ −−−−  ザ ・・・・ッ !

 

「 あら・・・? ねえ ・・・ この道もだわ? ほら・・・わたし達が進むとどんどん・・開けてゆくわよね。

 ほら  ほら。 道にはみ出していた藪や 梢が ・・・ ほら♪ みんな引いてゆくわ。 」

フランソワーズはウキウキと白馬に語りかけていた。

 

そう ― どんな妨害に遭うのか・・・・と 彼女はかなり緊張していたのだが。

街外れの城に向かう彼女と白馬を 森の動物たち や 空をゆく鳥たち、そして木々や草・花たちも

皆が応援してくれた。

白馬が軽快に進んでゆけば 何時の間にかその数歩前に 狐やら俊足の野兎達が道案内に走っている。

頭上では 小鳥たちが囀りつつ競って彼女の水先案内人となった。

木々は梢を揺らしつつ道をあけ頭上から光を洩らし、ベリーの茂みは沢山の熟れた実を差し出した。

馬を止め フランソワーズはとりどりの自然の宝玉を御馳走になる。

「 まあ ・・・ 美味しい♪ ありがとう〜〜〜 ブルー・ベリーさん♪ 」

大きなクマが ハスの葉にハチミツを置いていってくれたのには かなりビビった。

鹿たちは 自然に白馬を清らかな小渓へと案内してくれた。

清らかな流れの畔で主従は脚を止め しばし汗を拭う。

「 ほら・・・ お水よ?  美味しいわねえ・・・ あらこんなに汗を掻いて・・・ ごめんね、お馬さん。 」

フランソワーズは自分のマントで白馬の身体を拭いてやった。

「 う〜〜ん・・・ なにがなんだかよくわからないけど・・・・ 

 でも 世界中に 感謝しちゃう〜〜♪ ありがとう〜〜 森の動物さん達、樹々やお花さんたち〜 」

フランソワーズは周り中に声を出して礼を述べていた。

 

   ― オネガイシマス。  マホウツカイ ヲ 倒シテクダサイ 

 

彼女と白馬が森を通りぬけきるころ、四方八方から微かな声が聞こえてきた。

「 ・・・ あら? なんなの・・・  ・・・ 変ねえ・・・ < 耳 > には聞こえない・・・

 普通の耳だと ・・・ ちゃんと聞こえるのに。  いろいろな声、ね・・・

 ねえ お馬さん・・・ あなたにも聞こえる? 」

 

      ブルルルル ・・・・!

 

白馬は一段と大きく嘶くと ぶるん・・・と鬣をゆすった。

「 そう・・・そうなのね。 あれは動物や植物に変えられてしまったこの国の人々の声、なんだわ!

 きっとわたしの心に話しかけているから・・・ 機械の耳には聞こえないのね。  」

わかったわ ― フランソワーズは力強く頷いた。

 

      必ず。 あなた方を元の姿に戻しますから !

     

 ・・ カッ !  ヒズメを音高く蹴り、 白馬は古城の門を潜っていった。

ひらり、とマントを翻し馬上豊かに亜麻色の髪を靡かせた王子 ・・・ いや、姫君がゆく・・・!

 

 

 

「  ・・・ ジョー ・・?! 」

フランソワーズは思わず 大声で呼びかけた。

薄暗い城の大広間、宙にぽっかりと彼の姿が浮かびあがってきた。

「 今 行くわ!  でも ・・・ なぜ浮いているのかしら。 」

 

     ふん ・・・ やっと辿りついたか 

 

「 ・・・誰!?  もしや・・魔法使い? 」

彼女は油断なく辺りを見回したが <眼> も <耳> も 何も捉えることができない。

どうやら この城を初めとした一帯では 機械の力は役に立たないようだ。

咄嗟に腰に手をやると いつもの位置にスーパーガンがあった。

 

    よかった・・・! いくらこの恰好でも・・・剣なんかだったら困るもの。

 

フランソワーズはスーパーガンを構えると じりじりと広間中央へと近づいてゆく。

「 ジョーを返してもらうわ!  ・・・ 彼を解放しなさい。 」

 

     ・・・ うるさい娘だね。 

     坊やがここにいるのは 坊や自身の望みなんだよ

 

「 ジョーの ・・・望み?  うそよ! 彼がそんなこと、願うわけがないわ。

 わたしたち、 ずっと一緒に闘っていたのに無理矢理浚っていったじゃない! 」

宙に浮くジョーの姿は次第に鮮明になってきた。

彼は ・・・ 半分だけ覚醒し半分まどろんでいる風情だった。

「 ジョー・・・・!  聞こえる? ねえ わたしの声が 聞こえる?! 」

「  ・・・・・・ 」

何回よびかけても 応えはない。

眼の前に彼の姿ははっきりと見て、息遣いまで聞こえそうなのだが そのセピアの瞳は  

一向にフランソワーズを捉えようとはしないのだ。

それどころか 彼はなにかに身体を預け ゆっくりと頬を押し付け ― 恍惚とした表情をし始めた。

「   !? ― ジョーに ・・・なにをしたの!? 」

 

      ふふふ ・・・ そんなに知りたいのなら

      お前のその眼で はっきり眺めたらいい ・・・ 

      く く く く ・・・ その勇気があるかな・・・

 

「 ・・・ な、 なんですって?   ・・・ ああ ・・・! 」

フランソワーズの声は悲鳴に近くなった。

 

ジョーは。 オンナの、あのオンナ魔法使いの 白い胸にしっかりと抱かれていた。

彼はとても穏やかな顔で 眠っていた。

その表情は フランソワーズだけが知っている ・・・

毎晩 彼が彼女に満足しきってなにもかも投げ出し寝入っている時の顔なのだ。

彼女が一番好きな 彼の穏やかな顔・・・ 優しい顔なのだ。

 

     ・・・・ ジョー ・・・! ま まさか・・ このオンナと・・?

     いいえ! そんなこと、ないわ!

     ジョーに限って! 

     そう ・・・きっと魔法かなにかで誑かされているだけよ!

     そうに ・・・ 決まってる!

 

「 ジョー・・・! ジョー! 起きて! 眼を・・・覚ませて! 」

彼女は 必死で呼びかける。

「 どんな手を使ったか知らないけれど。 アナタはジョーを惑わせているだけよ!

 ジョーは ・・・ そんなヒトじゃないわ!  彼を起こすわ! そこをどいて!

 どかないのなら。  撃つわッ! 」

 

   ビ −−−−−!!

 

フランソワーズのスーパーガンが ―  魔法使いの身体を撃ち抜いた・・・ はずなのだが。

 

    ガラガラガラ ・・・

 

遥か背後の岩壁が 派手な音をたてて崩れ落ちただけだった。

「 ・・・ ?! な、なぜ・・・  すり抜けてしまった?? 」

眼の前には相変わらず、魔法使いは薄紫の裳裾をひき、はだけた白い胸に彼を抱いている。

 

    起こす?  ふん ・・・ コイツはいま。 のぞんだ世界で望んだ夢をみているよ。

    お前は それを壊すつもり かい。

 

「 ジョーの ・・・ 望んだ世界?  デタラメ、言わないで! 」

 

    そうかな?  ふふふ ・・・ ようく見るがいい。

    コイツは 愛されることだけを望んでいる。  

    お前がいくら愛しても ・・・ それは一方通行だぞ。  それでも いいのかね。

    コイツは 愛を貰う ことだけを欲している・・・

 

「 ・・・ そ、 それじゃ! わたしが愛するわ! わたしが彼の望みを満たす存在になるわ。 」

 

    ほう・・・? それでいいのかな。

    お前だって 愛されていたいのだろう?  

    ほら ほら・・・  無償の愛を注いでもらっていた少女時代が懐かしいくて

    お前を無条件に愛してくれた 父母やら兄のもとに 帰りたいのだろう・・・ ?

 

    こいつのモトにいても 愛はもらえない 

    コイツもお前も <愛されたい> としか願っていないからな

 

    この坊やは お前を愛して くれるかな? ふふふふ ・・・

 

「 そ・・・ それは。 パパやお兄さんのこと、大好きだけど。

 でも それは・・・家族だから・・・ だって家族ってそういうものでしょう! 」

フランソワーズは油断なく魔法使いを狙い続けていた。

「 ・・・ くッ・・・! 」

奥歯を噛み締め、慎重に狙いをつける。

しかし ― ジョーを胸に抱えている相手を撃つのはかなり危険を伴う。

 

     お前を愛してくれるものはちゃんといるではないか。

     無償の愛を 与えてくれる存在が ・・・

 

「 ・・・え ? 」

 ぼわん ・・・! と音がして 再び中空に人の姿が現れた。

「 姫君!  なぜ逃げてしまわれたのですか・・・?! 

 私は一生 あなたを大切にしあなたを守りあなたを愛する と誓ったのに・・・ 」

「 あ・・・ カエル、じゃなくて・・・え〜と ふ、フロリモンド王子さま! 」

カエル王子が しょんぼりと彼女を見つめる。

「 ご・・・ごめんなさい・・・ アナタのせいじゃない、のだけれど・・・ 」

「 どうしても ・・・ どうしても私では・・・ダメですか、フランソワーズ姫・・・ 」

「 ごめんなさい。  わたし。 たとえ愛され・・・なくても。    ジョーが好きなの。  」

「 フランソワーズ姫・・・ 」

 

     ふふん ・・・  なかなか気の強い娘だね

     この坊やをそんなに助けたいのか。 覚醒させたいのか。

 

     ふふふ・・・それなら ひとつだけ教えてやろう。

     娘、お前がこのカエル王子の妃になれ。 

     そうすれば 全ての魔法は解け ・・・ 坊やも目覚めるぞ

     もとに世界に戻してやってもいい・・・

     どうかな?  カエルのお妃もいいかもしれんぞ?

     お前のことを心底愛してくれるからなあ。

 

     ふふふふ ・・・ はははは ・・・・ 

     

いつの間にか カエル王子が彼女のすぐ側に立っていた。

「 アナタを愛しています。  ・・・ 愛が欲しいのでしょう? 愛されたいのでしょう? 」

「 ・・・ わたし は ・・・ 」

す・・・っと王子の手が彼女の腕を引き寄せる。

「 そのヒトも目覚めることができる ・・・ そう あの魔法使いに対抗できる唯一の方法ですよ。

 どうか 私の妃になってください、フランソワーズ姫 。 一生大切にします! 」

王子はそのまま跪くと 彼女の白い手にキスをした。

「 ・・・ わ わたし ・・・・ 」

 

      オネガイ ・・・タスケエクダサイ ・・・

      モトノ姿ニ 戻シテ ・・・ アナタニオ願イシマス

 

ちいさな声が 沢山の声が四方八方から聞こえてきた。

「 あ・・・! あの動物さんたち! 道中助けてくれた・・・木々やお花さんたち・・・! 

 そう・・・そうよね。 わたし、あなた達とも約束したのだったわ・・・ 」

ひやり・・手に残るあまり心地好いとはいえない感触も忘れ フランソワーズは立ち尽くしていた。

 

      わたし。   ・・・ 自分のコトしか ・・・ 考えて・・・ないわ

      ・・・ ジョーに愛されたいだけ、 なんだ・・・

 

目を落とせば足元から王子が熱心に見上げている。

 ・・・ 彼だって 一生懸命なのだ。 彼だって・・・ 誠意をもって彼女の手をとっている・・・

すう〜 ・・・っと フランソワーズは一息大きく吸い込んだ。 そして。

 

「 ジョーが。  ・・・わたしのジョーが ・・・ 目覚めるなら。 もとに戻るのなら。

  ― いいわ。 わかったわ。 わたし ― フロリモンド王子さま、 あなたの ・・・ 妃になります。 」

 

はじめ俯いていたが ― 彼女はすぐに顔を上げまっすぐに王子を見つめた。

その瞳の青さに躊躇や嫌悪の影は一片も   なかった。

「 おお ・・・! 姫君〜〜  ありがとう! ありがとうございます !!! 」

カエル王子は満面の笑みを浮かべ彼女を抱き寄せた。

「 では。 我が国の慣例にしがって。 未来の妃に ・・・ 誓いの口付けを。 」

「 ・・・ はい。 」

フランソワーズは もはや抗うこともせず静かに瞳を閉じた。

 

    ジョー ・・・・ ! さようなら。  

    ・・・・ ジョー! 生きて・・・! 思い通りに 生きて・・・!

 

    さようなら ・・・ 愛しているわ、いつまでも。 ・・・いつまでも!

 

 

かなり整った顔が近づいてきた気配がして ― ひやり、と何かが唇に触れた、と思った瞬間 

 

 

       ぼわわわわ〜〜〜〜〜ん ・・・・!!!

 

 

なんだかボヤけた音がして、まわり中に薄紫の煙がわんわん沸いてきた。

「 ??!! えええ ・・・ なに、どうしたの?? 」

「 ・・・ 姫君 〜〜〜 ゲコ ・・・! 」

王子の姿はすでに消えていて はるか彼方へ一匹のガマカエルが吹っ飛んでゆくのが見えた。

 

     な、なんということだ〜〜  娘!! お前がこんな行動に出るとは〜〜〜

     ううう  む 〜〜〜〜  ・・・ ううう ・・・・ううう ・・・・

 

オンナ魔法使いの断末魔の唸り声を聞きつつ、 フランソワーズの意識はことん、と途切れてしまった。

 

 

 

 

 

 

「 ねえ? ジョー、知らない? 」

「 ・・・ ジョー? はて、何方かな。  ・・・ ああ、 あの坊やか。 知らんなあ。 」

グレートはちら・・・っとキーボードから目を上げたが すぐにまた彼自身の世界に戻ってしまった。

「 そう・・・ いったいどこにいるのかしら・・・・ お茶の仕度、手伝って欲しいのに・・・・ 

 10人分って大変なのよねえ・・・ 」

フランソワーズは よいしょ・・・と籠を抱えなおしリビングを通りぬけていった。

キッチンに入ると ピュンマが戸棚からカップを出して並べている。

「 ピュンマ ・・・ ねえ、ジョーを ・・・ あら。 ありがとう! そうなのよ、そろそろ仕度しないと、ね。 」

「 フランソワーズ? ねえ このカップでいいんだよね。 

 毎日、大変だろ? どんどんこき使ってくれよね。 ・・・料理とかは無理だけど。 」

「 嬉しいわ〜〜  お料理は大人の担当だから大丈夫なんだけど。

 お茶はねえ・・・  あ、 あの。 申し訳ないのだけれど、このフルーツ、剥いてくださるかしら。 」

フランソワーズは籠の中身を見せた。

「 いいよ〜 なにがあるのかな。  ・・・うわ〜〜 綺麗だねえ・・・ それに沢山の種類だな。

 りんご かあ!  ・・・へえ? りんごだけでも ・・・ こんなに何種類あるんだ?! 」

「 この国はとても豊かなのね。 お店にはもっともっと沢山の種類があったわ。 

 それにね、 夏でもないのにメロンとか西瓜があるの。 ちょっとびっくりしてしまったわ。 」

「 ふうん ・・・ どれもおいしそうだね。 なんか・・・キレイすぎて皮を剥くのが勿体無いな・・・

 ・・・ 齧ってもいい? 」

「 まあ・・・ そうねえ。 でもお茶の時間にどうぞ。 

 あ!そうよ〜〜 ねえ、ジョーを見かけなかった? 」

「 ジョー・・・? ああ 009 だね。  うん、さっき裏庭に出ていったよ。 」

「 まあ、そうなの? それじゃ ・・・ちょっとここ、お願いね。 彼もつれてくるわ。

 手伝ってもらわなくちゃ。  彼だって仲間なんですもの。 」

「 ああ 〜〜 そうだねえ。  うん ・・・ 落ち込んでる、かもなあ・・・ 

 やっぱり さ、実戦なし、は ・・・ キツいよね。 」

「 ・・・仕方ないわ。 <初心者>なんだもの。 」

「 まあ、ね。  じゃ・・・こっちは引き受けるから。 彼をともかく引っ張っておいでよ。 」

「 ええ。 お願いね。  あら・・・また随分降ってきたわねえ・・・ 」

フランソワーズはキッチンの窓から裏庭を見透かした。

まだ庭木も揃っていない裏庭の奥に 佇んでいる少年の姿が見える。

「 いたわ・・・ まあ、ずぶ濡れじゃない! どうしたのかしら。 」

「 この雨が 降っている間は ― 僕達のしばしの休息ってわけだから ね。 」

「 そうね ・・・ 」

二人は苦い笑みを交わすと、 一人はシンクにリンゴを置き もう一人は勝手口から外にでた。

 

   ― 雨が 降り続いていた ・・・・ 

 

ここ数日間は降り続く、と予報は告げている。

鬱陶しいはずの雨が今は ほんの束の間の休息をもたらしてくれていた。

・・・雨って。 こんなに優しかったかしら。 

フランソワーズは 手を伸ばし雫をその指に絡ませる。

これは 本当に恵みの雨、かもしれない。

かりそめの休日 ・・・ それならそれで いい。 心静かに過したい・・・

彼女は 雨が指から伝い落ち、服を濡らしてゆく感覚をしばし味わっていた。

「 ・・・ ジョー ・・・・!! ねえ お茶の仕度、手伝って・・・! 」

彼女は 裏庭の奥に向かって声を上げると ばしゃばしゃと雨の中に出ていった。

 

 

 

「 !! バカやろ〜〜 逃げろ!! 」

「 え ・・!?? あ ・・・で、でも ・・どこへ・・・ 」

「 口、閉じてろ! 」

うろたえる青年を 銀髪がむんず・・・と襟首をつかみ岩陰に引きずり込んだ。

「 おめェ〜〜 バカか!? あんなな〜にもねえトコで ぼ〜〜っと突っ立っていたらよ!

 はい、標的にしてください・・・ってなもんだぜ! 」

すぐ後に飛び込んできた赤毛は ドン!と彼の背を叩いた。

「 あ ・・・ す、すみませ ・・・ん 」

「 けどよ〜〜 なんだ? あそこで迎撃する気だったのか? 」

「 げ いげき・・? 」

「 ・・・お前。 状況、見てるのかよ?! 」

赤毛はがんがん怒鳴り散らすのだが 当の本人は何もわかっていない − いや・・・

彼はただただ がくがくと身体を震わせていた。

「 あの距離だと僕たちでもちょっとレッド・ゾーンかな。・・・ああ、君は加速装置があるから大丈夫かな。 」

「 か ・・・ かそく ・・・そうち・・? 」

「 ・・・ シ・・・! また 来るわ。 11時の方向から。 今後は一人よ! 」

「 ふん! そんならオレ様一人でオッケーさ。 行くぞ! 」

「 待て。 俺がマシンガンで援護射撃する。  ・・・おい。  009! お前も頼む。 」

「 えんご しゃげき ・・・ 」

「 そうだ。 お前はこっちからだ。  」

「 ― 行くぞ! 」

「 よし!  ・・・ 009! 002が加速を解いたら撃ち始めろ。 ?? おい! 聞こえたのかッ! 」

「 ・・・え!? あ ・・・ ああ ・・・ あの ぼく ・・・ 」

「 004。 わたしが代わるわ。  008、009とサーチしていて! 片割れが現れないか気をつけて! 」

「 了解。  009? 君は南側を頼む。 」

「 ・・・・・・ 」

「 ― 来る!  002が加速を・・・解いたわッ ! 」

 

  バリバリバリ −−−−−   ドドド −−−−!!!!

  ・・・ ドッカ −−−−− ンッ !!!

 

一瞬にして辺りは土煙と独特の匂いの白い煙で覆われた。

「 ははは!!! そんな程度では我々の相手にはならんぞ! 」

煙の中がから 甲高い笑い声が響き、同時にすさまじい火花が炸裂した。

 

   バリバリバリ〜〜〜〜 バリバリバリ 〜〜〜

 

「 う ・・わあ 〜〜〜  ・・・ おい、だ 大丈夫 か・・・! 」

「 おう ・・・ 003!ヤツの位置は!? 」

「 ・・・ く ・・・ ううう ・・・ごめんなさい、 横にまわったわ! 3時の方向 ・・・! 」

「 008! 後方は?! 」

「 今は ・・・大丈夫・・・ くそ〜〜 すごい衝撃だ・・・ 」

「 退け。 一旦戻る。  」

「 004! まだ叩けるぞ、オレ! 」

「 やめろ。  いくらお前でも無理だ。 アイツの電撃をまともに喰らったら吹っ飛ぶ。

 一旦 退こう。  ・・・ すぐに雨 がくる。 」

「 あ ・・・?  本当・・・ もうすぐ本格的に降り始める・・・わ ・・・ う・・ 痛 ・・! 」

「 003。 大丈夫かい。 腕・・・ 傷めたのかい。 」

「 ・・・ええ ちょっと・・・破片が飛んできて当たっただけ。 大丈夫よ。 」

「 撤収だ。  後方部隊のグレートたちにも伝えろ。  ・・・ おい?! 」

「 了解。  ・・・うん? あれ・・・ おい〜〜 009! しっかりしろってば・・・!  」

パン ・・・ ! と頬と張る軽い音がした。

「 ・・・! え ・・・ぁ ああ ぼく ・・・! 」

「 なんだ、目、回していたのかい。  ・・・ ひとまず撤収だ。 」

「 ・・・ ああ!!! う、撃たれて・・・ましたよね? だ 大丈夫なんですか??!

 なんだっていきなりあんな ・・・ 乱暴な!  け、警察、呼びましょう! 」

少年は やっと目の焦点が合った・・・という顔だ。

「 おい。 口、閉じろ。 一先ず 撤収だ。 」

「「「 了解  」」」

「 す ・・・すご ・・・ い ・・・ 」

「 おい! てめ〜〜 次までに! せめて真っ直ぐに撃てるようにしとけ!! ボケ!! 」

赤毛は喚き散らすと ― 突然姿を消した。

「 ・・?? う、うわ〜〜〜 き、き、き 消えた〜〜?! 」

「 加速装置よ! あなたにも搭載されているのよ! 」

「 ぼ ・・・ぼくにも・・?? 」

「 ともかく! 今はあっちの岩陰まで走って! 早く! 」

「 う・・・うん   あ! ・・・ 」

003は 傷む腕を抱え、009をほとんど引き摺って駆け出した。

「 ・・・ ぼくは ・・・! 」

「 え? なに。 なにか言った? 」

「 ・・・う ううん。 ごめん・・・ その・・・きみの怪我は大丈夫? 」

「 今は! 移動することだけを考えなさい! 先に行くわ! 」

「 ・・・ ! 」

009は黙って彼女の後を追いかけた。

 

   ぼくは  ・・・ 皆の足手纏いになるだけだ 

   ・・・ この 変わった銃ですら まともに扱えない・・・!

 

  ― 雨が 落ちてきた。

 

そして。 それは 降り続いた。 次の日も 昨日も今日も ・・・おそらく明日も。

 

 

 

 

あの闘いの日から数日間、 崖っぷちの洋館ではまことに静かなごく当たり前の時間が流れている。

「 ・・・ あら? 何をやっているのかしら。  ジョー? 」

雨の中 裏庭の奥では ―

セピアの髪の青年がずぶ濡れになり  スーパーガンを構えていた。

 

   ビーーーー!      ビ ・・・!!!   ビビビ −−−−!!

 

彼の手元から細いビームが飛び出す。  何回も 何回も ・・・

そこは 一種の実験場にもなっている。

サイボーグ達が自分の <能力> の調整をしたりスーパーガンの調子の確認に使っていた。

勿論、実戦ではなくテスト用のビームを発射し、特殊な標的を狙う。

 

その場で彼も ― 009も テストをしていた。

ビームが雨脚を切り裂いて飛んでゆく。  しかし標的は動かない。

「 ・・・ くそ ・・・! 」

雨を額からもしたたり落ちるにまかせ、 彼は − 009は唇を噛み締め・・・撃つ。

 撃つ   当たらない  撃つ  掠りもしない   撃つ   反動でよろける

 脚を 唇を噛み締め 撃つ  

当たらない  それでも  撃つ  ・・・ 撃つ !

 

フランソワーズは無意識に駆け出していた。

ばしゃばしゃと雨脚を踏みつける音に、彼はようやく撃つことを止めた。

「  ・・・・? あ ・・・ フラン・・・ じゃなくて。  ゼロゼロ ・・・ スリー ・・・ 」

雨と汗と ・・・ 悔し涙でべとべとの顔が振り向いた。

 

    ・・・ ジョー ・・・! あなたって ・・・・

 

「 ジョー? 無駄に撃つだけでは訓練にならないわ。 」

「 ・・・ごめん。  ゼロゼロ スリ − ・・・ 」

「 ミッション以外では 名前で呼び合いましょ? 」

「 ・・・う うん ・・・ごめん  ・・・・ フランソワーズ ・・・ 」

「 なぜ? 」

「 ・・・ え。 」

「 ジョー、あなた なぜ謝るの。  」

「 え。 だ・・だってぼく。  全然 ・・・ なんにもできなかった・・・!

 きみを守りたい!って思っていたのに。 それどころか ・・・ 皆の足手纏いになって

 きみに怪我までさせてしまった・・・! 」

「 それは ・・・ 仕方ないわ。 あなたはまったくの初めてだったのですもの。

 実戦はおろか演習の経験すらない人を いきなりミッションに放り込んでも ・・・それは無理よ。 」

「 でも・・・! ぼくだって・・・ぼくだってサイボーグ、皆と同じサイボーグなのに・・・!

 ぼくは ― なんにも出来なかったんだ。 

 そうさ、ぼくは・・・脚が竦んで動くこともできなかったんだ・・! 」

「 もう気にしないことよ。  イヤでも次の闘いはやってくるわ。

 この ・・・雨が止んだら。 アイツらはまたやっていくる。 その時には 」

「 ・・・だから練習してたんだけど・・・ 全然・・・・ 」

「 あのね。 ムヤミに撃つだけではだめ。 まず よく見ること。 」

「 見る? 標的を? 」

「 まず、自分自身を。 自分のクセ、自分の身体の、そして心の状態をよく見て納得して。

 それから  撃つの。 」

「 ・・・・・・ 

しばらくの間 雨脚を ビームが切り裂いていた。

 

 

「 そう・・・ほらね。 随分精度がアップしたでしょ。 ジョー、あなたってとてもカンがいいのね。 」

「 でも まだだめだよ。  ・・・き きみを守るためには・・・!

 もっともっと・・・いろいろな訓練を重ねないと。  加速装置だってよく使い方もわからないし。 」

ジョーは 唇を噛み、俯いた。

「 この身体になったのに。 何もできない・・・! 皆の足を引っ張っていうるだけなんだ。

 いつか ・・・ ぼくが原因で皆を ― き きみを危険な目に遭わせてしまったら・・・!

 そう思うと。  いても立ってもいられない。  

 ぼくは。 ぼくのするべきことは ・・・一体なんなんだ? 」

ジョーは スーパーガンを握る自分自身の手をじっと見つめている。

「 ごめんなさい。 」

「 ・・・ え?   」

「 ― ごめんなさい。 わたしのせいなの。 」

「 ?? な  なんのことかい。 」

「 あの・・・ ジョーをサイボーグにしてください・・・って博士にお願いしたのは わたしなの。

 あの時 ・・・あの火事でジョーが瀕死の状態だったとき・・・ 」

フランソワーズはほんの一瞬 言葉を途切らせたが すぐにはっきりと言った。

「 わたしのワガママなの。 わたし ・・・ どうしても ジョーを・・・失いたくなかった。 どうしても!

 だ ・・・だから。  博士に。  ジョーを助けてください サイボーグにして生き返らせてくださいって・・・

 お願いしたの・・・ 」

「 ・・・ うん。 知ってた。 」

「 ― え・・・ ? 」

「 なんでかなあ。 あれはもしかしたらぼくの都合のいい妄想なのかもしれないんだけど。

 夢の中で ぼくは きみを守りたい、 ずっときみの側に・・・って言ってた。

 でもその時 ・・・多分ぼくはもうほとんど死んでいたのかもしれないけど・・・・

 どんな形でもいいから、 きみの側にいたい・・!って 願ったんだ。 」

「 ・・・ あ ・・・ 」

001が 彼の意識に問いかけたことを 本人は感じていたらしい。

「 なんでかなあ。  きみが泣いているって思った。

 どうしても どうしても きみの涙を見たくなくて。  笑顔が見たくて。

 そのために ぼくは 生きたい!って どんなことをしても生きたい!って思ったんだ。 」

「 ・・・ そう ・・・ そうなの・・・ 」

「 うん。 だから。 この身体になって ― うん、きみと同じ身体になれてよかった・・・

 これで きみと同じ痛みも喜びも ・・・分け合えるだろ? 」

「 ジョー・・! ・・・ ありがとう・・・ すごく すごく ・・・嬉しいわ。

 でも ・・・ 本当にそう思うの? それは ・・・ ジョーのこころからののぞみ、なの。 」

「 うん! ぼく・・・神父様が ああやって生きていてくださったおかげで頑張れたんだ。

 ・・・ぼく、きみが好きです。 だから ・・・ 今度はどんなことしても、きみを守る! 」

ジョーは 晴れやかに ― ちょっとはにかんだ風に 笑うと彼女の手を握った。

「 ― ぼくは きみが好きだ。 きみと生きて行きたいんだ。 」

「 ・・・ ジョー ・・・・ 」

二人は腕を差し延べ 絡ませあい  ―  しっかりとお互いの身体を抱きしめた。

「 あは ・・・ ごめん。 ぼく びちょびちょなんだっけ ・・・」

「 ・・・わたしもよ。  ああ でも ・・・温かい・・・ 」

「 うん? ふふふ 誰の胸でも温かいよ、フランソワーズ。 」

「 ・・・ ジョー。 愛してるわ・・・ 」

「 ぼく も。  ぼくは この身体になれて嬉しいよ。 」

「 皆が喜んで ・・ ううん。 恥ずかしいけど 言うわ。 わたしが一番嬉しいの・・・・! 」

「 ・・・ ありがとう・・・! ぼくに生きるチャンスを与えてくれたんだね。 」

「 わたしも ジョーから生きる喜び をもらったわ。 」

「 生きる喜び? 」

「 そう ・・・ それは ね♪ 恋をすること、よ。 」

「 ・・・・・・ 」

ジョーは 穏やかに微笑むとフランソワーズの頬に手を当て ー 唇を重ねた。

「 ・・・ あ! 」

「 ・・・ うわ ・・・な、なんだい? 」

「 いけない! わたしね、 お茶の仕度、手伝って・・・って呼びにきたのよ! 」

「 え ・・・ 」

「 いやだわ〜〜 きっと もう・・・皆 お茶タイム、終ってしまったわ〜〜 」

「 じゃ。 二人で後片付けやります〜〜って謝ろうよ。  ん? 」

「 ・・・ そうね♪ 」

フランソワーズもにっこり微笑み、差し出されたジョーの手を握った。

「 一緒に 帰りましょう? 」

「 ・・・う  うん ・・・ 」

二人はゆっくりと母屋へ歩いていった。

   ・・・ キッチンの窓から あわてて引っ込んだ人影が ふたつ・・・みっつ・・・

 

 

 

   ― 翌日の午後。   雨が   止んだ ・・・!

 

 

 

  バリバリバリ −−− −−!!!  バリバリッ !  ドカーーーン ・・・・!!

 

ヤツラの攻撃はますます威力を増していた。

雨が上がると ヤツラはやってきた。  ― 双子の暗殺者兄弟 ・・・ 0010。

彼らの連携した攻撃に遭い メンバーたちはぼろぼろになっていた。

講じていた作戦はことごとく破られ いまや白兵戦になり ― ゼロゼロナンバ−達は追い詰められた。

 

「 クソ〜〜〜!!! ダメだぜ〜〜 どうやってもあの電気ショックには勝てねェ!! 」

「 ・・・ う・・海もダメだった・・・! アイツを引きずり込もうと思っただけど・・・ 

 ヤツラは僕たちより 確実に性能が ・・・上だよ! 」

「 どいてろ! 俺がもう一回・・・! 」

「 あ! やめろって・・・! オッサン! 死んじまうよッ ! 」

 

   バババ  −−−−   !! バシュッ −−−−!!!

 

聞きなれたマシンガンの音は すぐに弾き返された。

確かに 0010 と称する双子のサイボーグ達は<最新式> ・・・ 攻撃能力はもとより、

加速装置の速度にしても 002を上回っていた。

「 ・・・くそ ぅ ・・・・!!! 」

「 004! 大丈夫!? 」

「 ・・・く ・・・! 俺に構うな! それよりも的確に索敵するんだ! 」

「 了解・・・!  002、弟の方が 東へまわったわ! 9時の方向! 」

「 俺、ヤツの目を引く。  その間にもう一方を皆で集中攻撃しろ。 」

「 005!?  今 出ていったら・・・! 」

「 平気だ。 」

「 よろしアル。 ワテが火ィで防護幕、作ったるで! 」

「 頼む。 」

「 我輩とピュンマは援護射撃するぞ! 後方は任せろ! 」

「 むう ・・・ 」

「 よ。 オッサン。 俺たちゃ もうひとっ飛びしようじゃねえか。 久々のコンビ・プレイ! 」

「 ふん・・・ 003! ヤツラの位置のデータを詳細に教えろ! 」

「 了解! 脳波通信で補助脳に直接送るわ!  オーバーフローしても・・・しらないわよ! 」

「 ふふん ・・・ 歓迎だ。  ・・・よしッ 行くぞ! 」

「 オッケ。 オッサン! 」

00ナンバーたちは 滅茶負けに近い。 皆 ぼろぼろで破損箇所のない者はいなかった。

勝てる見込みは 誰の目にも皆無だ  ― しかし

全員が 最大限の力を発揮し微細でもなんとかチャンスを捜しだそうと必死だ。

 

       す ・・・すごい ・・・・!

       諦めて ・・・ ない!! 諦めてないんだ!

       誰ひとり  放り出してない。

 

       ぎりぎりまでチャンスを探って 立ち向かってる・・・!

 

ジョーは ― 最強のはずのサイボーグ009は ただただ呆然と仲間たちの闘いを見つめていた。

仲間達に 悲壮感など微塵もない。 むしろ 彼らは淡々と至極冷静に局面に対処している。

時にはジョークまでまじえて ・・・

 

「 ・・・ ぼ ・・・ぼくは。  なにもできない・・・! 」

 

彼が搾り出すようにやっと言葉を吐いたとき。

「 ・・・ 005!! もっと後ろ!!  援護射撃、 あと10メートル南へ! 」

「 了解。 ・・・くそ〜〜 まだるっこしいな! 005に接近するよ! 」

「 008! 気ィつけや〜〜!! 」

「 007、008も援護、お願い。 」

「 合点承知の助!!! 」

「 ・・・ 005!! その方向 ・・・ あああ!!? 」

「 ?? 003?おいッ ? 」

突然 瓦礫の影から003が飛び出した。

そこは度重なる攻撃のため、瓦礫もふっとび焼け野原になりつつある。

端の方に辛うじて残る茂みに なにか動くものがあった。  ― 小動物・・・野良猫か狸らしい。

「 ば・・・ばか!! 003!!! もどれッ 」

 

     バリバリバリ −−−−− !!!

 

青白い火花が跳び 細い身体が跳ねとんだ。

「 ふふふ・・・・ しゃしゃり出てきたか!  試作品ども。 まずはお前からトドメだッ! 」

「 ・・・ くそ〜〜!! 」

007が 瞬時に黒豹に変身し彼女を引き摺り戻ってきた。

「 ・・・・003 !?  ああ ・・・ 仔猫? 」

意識を失った彼女の腕には 小さな猫が震えていた ・・・ 

「 ・・・・・・ 」

ジョーは 彼女の傷だらけの頬に唇をよせた。  そして す・・・っと立ち上がる。

「 おい?  坊や・・・ 彼女の看護を頼む・・? ・・・ええ? 」

ジョーは ― いや 009は瓦礫の影から飛び出した。

 

 

    「 こいッ!  ぼくが相手になってやる ・・・! 」

 

 

 

 

 

遠くに まだ黒い煙が見える。

キナ臭い風が ときおり吹き抜けてゆく・・・

 

「 いやあ ・・・ あの坊やの勇気と根性には恐れ入ったよ。 」

「 ようこそ。  009。  俺達は仲間だ。 」

「 あは ・・・ やっぱり君は 最新式なんだね!  うん、すごく納得だよ ! 」

「 いや〜〜〜 ようやってくれはったな、 坊!! 」

「 むう。 お前は  009  だな。 」

ぼこ   ぼこ  ぼこ・・・ どん! 

沢山の違った腕が 009 の背を肩を腕を叩く。

「 ・・・ え ・・・ いてッ!  えへ・・・いてて・・・ ああ・・ 」

焼け焦げの残り顔が ぼろぼろの防護服が 笑う 笑う 笑う ・・・!

 

   ―  ぽつり ・・・

 

「 ・・・ あ? 」

 ジョーのほほに 水滴が落ちる 

  お。 また降ってきやがったな   弔いの雨  」

 グレートは焼け野原に打ち伏す骸に 然り気無く十字を切った。 

 

       雨が  降る    今度こそ安息の 雨が

 

ぼろぼろの焼け跡だらけになり 焦土と化した野で

彼らは 最早動かなくなった 0010 を遠くに見つめていた。

「 ・・・ ・・・ ・・・・ 」

009も 黙ってたった今 自らの手で倒した敵の姿を見ていた。

「 ・・・ 可哀想なヤツら ・・・ 双子の兄弟なのに ・・・触れ合うこともできなかったんだ・・・ 」

「 009。 おい・・・?  メンテ・ルームに行ってやれよ。 」

「 ・・・ え? 」

「 003が 気がついたそうだよ。 ・・・待ってるよ、彼女。 」

008が ばちん・・・とウィンクして見せた。

「 ・・・ え ・・・か 彼女・・って。 ぼ  ぼく達は そそそそんな べつに・・・ 」

「 ば〜かか おめェ!? おらおらおら〜〜 行けっての! 」

「 ・・・ ありがとう! 」

突然駆け出した青年の背を 仲間達の笑い声が後押ししていた。

 

 

 

「    フラン     」 

彼は足音を忍ばせ医療ベッドに近づいた。 

「 ・・・  眠っているのかな    ああ 頬にあんなに傷が ・・・ 」

ジョーが 彼女の傷だらけの頬に そっと手を伸ばした途端  ― 

「  ……  

ジョーの愛しい人は両腕をひろげ 彼に抱きつてきた。

「 ・・・うわ?! ・・・   ああ  ああ  よかった・・・! 」

「 ・・・ ジョー ・・・! 」

二人は縺れ合い絡みあって 熱い口づけを交わした。   

 

   なにがあっても。  どんなことが起きても。

   きみが  あなたが  好き・・・!

 

 

      

       パ ァ  −−−−−−− ン ・・・・・!!!!

 

 

 

 

 

「 ・・・ あ ・・・ あれ・・・? 」

「 う・・・ん ・・・ 眩しい ・・・ 」

彼が 彼女が 目を開ければ  ―  この世で一番愛しい人の顔が間近にあった。

「 な・・・ なんだい?  どうしたんだ・・・ 」

「 ・・・星・・・流れ星 みたい・・・ 」

二人は起き上がると 窓を大きく開け放つ。

 

東の空を一際明るく染め 一条の星が 流れた・・・

 

      あれは ・・・あの星が見せた 夢・・?

 

「 夢を・・・みたわ。 」

「 きみもか?  」

「 ええ。  ジョーも・・・いたわ。 」

「 ああ。  きみも ・・・いた・・・ 」

「 夢の中で  きみは素敵だった・・・! 」

「 ジョーも。 すごくすごく・・・素敵だったわ・・・ 」

「 あの星は ・・・ 心の底を照らしてくれたのかもしれない。 」

「 ・・・ そうね。  忘れかけていたことを こころの奥に沈めていたことを・・・もう一度・・・ 」

「 うん。  ぼくは何回生まれ変わっても・・・! きみに会うよ。 」

「 わたし ジョーを愛してる ジョーに愛されたい。 

 わたし ・・・ どんなことがあっても ジョー! あなたが大好きなの。

「 ・・・ 愛してる 愛してるよ フランソワーズ ・・・ ! 」

「 わたしもよ、ジョー・・・ 」

 

ジョーとフランソワーズは身を寄せ合い暁をまつ空を見上る。

 

       そう あの星は ・・・ あの惑星は 愛を告げる星

 

 

 

 

 

   *******   おまけ  ********

 

 

「 ねえ。 正直に教えて? 」

「 え・・・なんだい。 」

「 ジョー あなたってば  あの魔法使いと     」

「 え?   ああ アイツ!  ひっで〜〜ヤツだったよな、好き放題 やってくれて!  」

「 え・・・・す、好き  放題 …って ・・・ 」

「 あれえ。  きみ・・・ 気がつかなかったのかい??

 ぼく。 馬だったんだよ? アイツに魔法かけられてさ。 厩に押し込められて。

 ほら、 きみと一緒にあの古城まで行ったじゃないか。 」

「 えええ ・・・????  あ・・・ あのお馬さん が ジョー・・・だったの?? 」

「 きみさ。 ちょ〜っと太ったのかなあ〜〜なんて思ったけど? 」

「 ・・・ ジョーの バカバカバカ 〜〜〜!! 」

「 うわ・・・! な、なんでそんなに怒るんだよ〜〜 うわ〜 」

「 ・・・もう〜〜知らない! 」

 

    ・・・ 拍手小噺、じゃありません〜〜(^_^;)

 

 

 

**************************     Fin.    **************************

 

Last updated : 06,15,2010.                back       /       index

 

 

 

**********   ひと言   ***********

ああああ や〜〜〜っと終わりました・・・

あは・・・原作設定 で書き始めたのですが 見事に?平ゼロ風味になってしまいました・・・

すみません〜〜〜 <(_ _)>

ただ ただ あの異床異夢な二人はないだろう〜〜 ってことで。

ともかくらぶらぶは 惑星093 にしたかったのです。

深夜に流れた星は もちろん我らが MUSCES ー C ・・・・ はやぶさ です。

ご感想〜〜〜 ひと言でもお願いします・お願いします〜〜〜 <(_ _)>